経済産業省より

ルールづくりとしての標準化

経済産業省

産業技術環境局 基準認証政策課

課長補佐 中山 文博

1988年,ソウルオリンピックで競泳背泳ぎの鈴木大地選手(現スポーツ庁長官)が「バサロ泳法」という両手を前に伸ばし,脚はバタフライのドルフィンキックをしながら潜行する泳法を30mも駆使して念願の金メダルを勝ち取りました。しかし,その直後,バサロ泳法の距離が15mまでとルール変更が行われてしまいました。

1998年2月の長野冬季オリンピックでは,スキー・ジャンプ団体で日本は岡部選手・斉藤選手・原田選手・船木選手の4人で金メダルを獲得しました。しかし,その後,国際スキー連盟はスキー板の制限を行いました。この改正以後,日本チームは国際試合でかつてのような成績を上げられずにいます。

このように,スポーツ界では海外主導でルール改定が頻繁に行われる傾向にあり,日本のスポーツの国際競争力が低下している一つの要因となっています。

海外主導でルール改定される要因には日本人の語学力や発言力の弱さが挙げられています。原因がどういったものであっても,スポーツ界ではルールを決めた側に有利に働いていることだけは事実です。しかし,これは実はスポーツルールに限ったことではなく,一般に「決まり事(ルール)」は「決めた者」に有利に働くというのが通例です。

いずれにしても日本のスポーツの国際競争力を高めるには,これから単にルールを使うだけでなく,国際スポーツ界にルールを自ら提案し,作っていくという根本的な姿勢の転換が必要なのです。

 

スポーツルールのように,規則や規制などの「取り決め」や「決めごと」を標準(standard)と言います。例えば,コンピュータのOSではよく「Windowsが世界標準になっている」などということを、新聞で読んだりすることがあると思います。

そして,この「標準」を関係者が集まって協議などで話しあいによって意識的に作り,それを利用する活動のことを標準化(standardization)と言います。例えば,最も身近な標準化の例を挙げれば,乾電池の標準化があります。単一,単二,・・・など,幾つかのサイズに統一されているおかげで,私たち消費者の側はどのメーカーのものを買っても使うことができます。標準化による便利さはふだんあまり意識しないかもしれませんが,私たちの生活に深く浸透しています。

また,こうした分野に加えて,近年では,IoTやビッグデータ,AIなどの技術イノベーションによる新たな世界市場の獲得競争が激しくなる中で,こうした技術が活かせるような標準を戦略的に作っていくことがますます重要となってきています。

 

標準は,私たちの生活を便利で豊かにしてくれる重要なツールです。標準がどういうものであるか,何のために作るのか、どのように作れば良いのか,どのように活用すればよいのか。標準について深く理解することで,より良い世の中をデザインすることが可能になります。標準は,一部の専門家だけが知っていれば良いものではなく,学生であるか社会人であるか,文系であるか理系であるかに関わらず,教養として身につけておくべき「共通言語」です。今後、皆様が様々な活動を通じて標準や標準化活動に実際に触れ、標準の大切さや奥深さを実感していただき、将来、自由自在に標準を操って、世界を良くすることができる人材になることを心から期待しています。