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東京大学海洋リテラシー「食卓に迫る危機」

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2014年3月11日、特定非営利活動法人WEBREIGO主催のリテラシー講座が区内私立中学において開催されました。

今回は元農林水産省、現在東京大学准教授・東京大学農学博士の八木 信行さんをお迎えし、食卓に迫る危機についての講義をしていただきました。

漁業の現状そして、普段食卓に出される魚介類に対してどのような影響を与え、 その問題の解決に私たちはどのようにして貢献できるかについてです。

〜日本の漁業の現状〜

日本の漁業はピークであった1970年代と大きく変化してしまいました。 かつて世界1位だった日本の漁獲量は現在5位となっています。

何が日本の漁業を大きく変えたのでしょうか? それは大きく分けて以下の4つが挙げられます。

特に上記の2つは深刻なダメージを与えました。

国同士のつながりが強くなった70年代以降は国際規制が強くなり、 遠洋漁業が中心だった日本の漁業にとって大きな打撃を与えました。

以前はアラスカなどの沿岸水域まで入って操業していた日本の遠洋漁業は、 沿岸200カイリ以内を排他的経済水域とする新しい国際ルールができたために漁場を追い出されたのです。

マイワシは自然環境の変動によって周期的に豊漁になる時期とそうでない時期が現れる魚です。

日本沿岸では、80年代後半にはまで漁獲量の約半分を占めるほど豊漁でていました。 しかし、海洋環境の変動によりマイワシの個体数が減少するとともに、 漁獲量は減少の一途をたどりました。

これらの原因で現在、日本の漁業、そして私たちの食卓は「危機」に瀕しているのです。

〜養殖は海にやさしい?〜

養殖は世間一般的には「自分たちで育てているから海の魚たちには影響がない」や「海にごみを捨てずに済むから海にやさしい」という意見が多いと思います。

しかし、その意見は必ずしも正しいとは言えません。 それは、例えばマグロでは、養殖で1kgの魚を育てるのに必要なエサは10kgもあるのです。 そして、そのエサのほとんどはアジやサバなどの安い魚が使われています。

1/10にまで減少してしまうのです。

〜おさかなクイズ〜

今回の講義ではおさかなクイズとしてウナギについてのお話も聞かせていただくことが出来ました。

出題は「ウナギとアナゴでなぜウナギだけが養殖されているのか」についてでした。

問題が出されると同時に生徒たちはいっせいに議論し始め、先生に選ばれた生徒は見事に正解することが出来ました。 (ちなみに答えは「ウナギの方が高価なため養殖向きであるから」でした。)

また、ウナギの稚魚であるシラスウナギが成長して、うな重などの食べ物として供給されていることや養殖の方法(ビニールハウスでの養殖、給餌方法)に関する場面では驚いた様子を見ることが出来ました。

〜世界の漁業の現状〜

現在、世界の漁獲量の順位は以下のようになっています。

この順位を見てみるとかつて1位だった日本も5位までに低迷しています。
その一方で中国、ペルー、インドネシアで25%以上を占めています。

中国は淡水魚、ペルーはアンチョビー、インドネシアは膨大な領海という強みを持つことで漁獲量を着実に伸ばしています。

現代の世界では、魚をめぐる競争が問題となっています。
人口の増加という問題の他にもいくつかの理由があります。

アジアでは豊かな家庭はお米よりも魚を食べるようになり、欧米でも健康志向からお肉より魚を食べるようになりました。

また、漁船や漁具の発達で起こる魚の乱獲も問題視されています。

〜世界のクジラの過去と今〜

第2次世界大戦以前、世界でシロナガスクジラは乱獲され続けていました。 乱獲され続けた理由、それは燃料などに使う油のためでした。

クジラからとれる鯨油は油田を持たない国にとってはとても貴重なものであったのです。

第2次世界大戦後は個体数が減少したシロナガスクジラの代わりにナガスクジラを獲って鯨油を生産していました。 そんななか、1960年代以降はアラブから原油を輸入することによって、鯨油を使用する機会は減少し、さらに環境保護意識の高まりによってクジラの漁獲量は激減しました。

しかし、それでもクジラの漁獲量が変化しない国がありました。 それは日本とロシア(旧ソ連)でした。

この2国はそれぞれ食用としての漁獲、共産主義という政治形態という別の用途でクジラを漁獲していたため、漁獲量は減少しなかったのです。

今も捕鯨モラトリアムを制定したものの、調査捕鯨や伝統的な捕鯨であるという理由で捕鯨は続いているのです。クジラを絶滅させてはいけませんが、クジラも海の生態系の一部ですから増えすぎると魚を多く食べるなど、漁業に悪影響を与えます。クジラだけの問題ではなく、海の生態系の問題として考えることが重要です。

〜まとめ〜

今回のこの講義を通して最後に生徒たちに伝えたこと、それは「魚を積極的に食べてほしい」ということでした。特に安い魚を食べてほしいとのことでした。安い魚は資源量も多い種類の魚です。また養殖のエサなどに回すよりも人間がそのまま食べる方が環境に優しいのです。 普段から日常的に魚を食べて関心をもってもらうことで、漁業の現状について考える良い機会になるのです。

そして、ひとりひとりがこの問題について考え、大きく広めることで世の中の大きな動きにつながっていくのです。

これからも私たちはこうした講演を通して一人でも多くの人に知ってもらえるような活動を推進していきたいと考えています。

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